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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「母からの手紙で知ったのですが、公郷はやっぱりいけませんか」

「わたくしがいたらないのだと思います」

由利江は低いこえで云った。

「公郷の放蕩は、好きでやっているのではございません、見ていても苦しそうなことがたびたびございますの、放蕩をせずには、いられないような、なにか深い悩みがあるのだと思いますわ」

「――例えばどういうことか、あなたにはおわかりですか」

「ほんのおくそくではございますけれど」由利江は両手の指を絡み合せた、「――公郷の父もあのようにして老職をお退きなさいましたし、公郷も学問所から逐われました、父と子とつづいた不運、まわりのかたがたの冷たい眼、寄合席にいるというだけで、一生なすこともなく終りそうな身の上、……こういうことが重なって、ついじっとしていられなくなるのではないかと、思いますの」

金之助は頷いた。そうかもしれない。いやおそらくそれが事実だろう、由利江はさかしくも良人の心にあるものをみぬいているのだ、そしてそれを此処へ云いに来た気持も、金之助にはおよそ察しがついた。

「そう、たぶん仰しゃるとおりでしょう」彼は静かにこう云った、「――もしそれが事実だとすれば、彼には必ず良い機会が来ます、そう遠くない時期に、きっと彼の世に出る機会がやって来ますよ」