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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

彼は支度部屋の長持の底からあの包を取出し、居間に籠って中の書類をしらべていた。

それは推察したとおりの物であった。すなわち国許と江戸の老臣たち九名が、合議のうえ四種の商舗を経営するという、連名の旨意書を第一に、経営を任せる商人との契約書とか、年々の収支決算とか、事業に関する往復文書などの類である。――始められたのは約二十年まえで、当時ひじょうに逼迫していた藩の財政を救うため、沢渡助左衛門と江戸家老の灰野内蔵助が主となって企画し、十二年続いてうちきられている。詰り藩の財政がたちなおったので、経営は老臣たちの手から離れ、それまで委託していたそれぞれの商人に譲渡されたのである。……書類はそれだけではなかった。次には事業を譲り受けた商人たちから提出された報告とも訴状ともいえる書類で、手を切った筈の老臣たちが依然として経営を支配し、従前どおり利得を収めていること、その詳しい事実と数字とが、年度ごとに記録されたものであった。

――これは商人たちから父へ提出されたものに違いない、とすれば父がこれら老臣の一味でなかったことは慥かであろう、いつか事のあった時のために、父は商人たちから詳しい記録を取って置いたのだ、そうでなくてこれをなんのために自分に託する必要があろうか。