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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
彼には父の気持がはっきりとわかるように思った。父は不正の共謀者ではなかった。寧ろその摘発者の立場にいたのである。事が表われて沙汰になったばあい、老臣一味は父を主謀者とするよう、巧みに首尾を拵えてあるという、おそらくそれに相違あるまい、そして父もその覚悟はしていたと信じられる。
――身命を惜しまず、家も名もあらず。
慥かにそうだ、父には自分を救おうなどという考えは少しもなかったのだ。金之助は父の意志と対面する思いで、厳粛な感動にうたれながらやや暫く瞑目するのであった。
使いの者が半三郎の手紙を届けに来たのはそのときであった。――権現下の柳井という茶屋に待っている、すぐ来て呉れ。そういう文面であった。書類のしらべはもう済んだので、使いの者に承知の旨を答え、包を元のように始末した。それを江戸へ持ってゆく荷物の中へ入れ、おそくなった午餉を軽く喰べてから家を出た。……権現下というのは城下町を東にぬけた丘添いの一画の俗称である、丘の上に名高い日吉権現の社があり、近国からも参詣する者が絶えない。古い杉並木のある参道にそういう人たちのための休み茶屋が建っているが、なかには化粧した女などを置いて遊興を主とした家も二三ある。