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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

金之助の謫居のまわりも、庭木の紅葉したものがなかなか散らず、枝から枝へのどかに小鳥の鳴きわたるような日が幾日も続いた。――或る夜、とつぜん気温が下って夜半から雨になり、明くる日もずっと降りやまなかった。

午をかなりまわってから、なんの前触れもなく由利江が訪れて来た。それまでにも靱負から母に会ってはどうかとすすめられたことがある、幾たびも「会うように」とすすめられたが、それでは法に反くからと固く断わって来た。尤もそのためわざと前触れをせず、黙って靱負がとおしたのかもしれない。ちょうど杉田もいなかった、窓際の机に倚って、この家から借りた詩経をみていると、玄関に人のはいるけはいがし、案内を乞う声が聞えた。

女のこえのようなので、不審に思いながら出てみると、由利江が雨除けの被布をぬいでいるところだった。

「どうしたんです」金之助は咎めるように云った、「――どうしてこんなところへ……」

「公郷に申しつかってまいりましたの」

由利江はこう云いながら、こちらには構わず濡れた足袋をぬぎ、片手に風呂敷包を抱えてあがった。拒まれるのを承知で来たというふうが明らかである。