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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
――お母さまの亡くなったのが夏でよかったと思います。もし秋だったらどんなに悲しかったでしょう。……木や草が枯れて、夜なかに寒い風の音などが聞えたら。
金之助は心をうたれた。慰めの言葉もなく、黙って頷くだけであった。どこへでも幸福を持って来る、人にそう云われる温たかな明るい性質、会うほどの者を楽しくゆたかな気持にさせるひとがらの裏には、そのようにこまかな神経が隠されているのである。一年して父が継母を迎え、その翌年に千之丞が生れた。もちろん継母ともよく折合ったし、異母弟とのむつまじさはまえに記したとおりである。そして金之助の母親はもうかなり以前から彼の妻には由利江をと考えていたし、由利江のほうでもうすうす気づいているようすだった。
はいって来た由利江は、例の駘蕩たる微笑をうかべながら挨拶をし、今日はおねだりをしにまいりましたと云った。
「なんです。おねだりとは」
「――まあ牡丹がきれいに咲きましたこと」
明けてある小窓の向うを見てこう云うと、由利江はいま坐ったばかりの座を立った。ゆらりと花の揺れるようなのびやかな動作である。会釈をして窓に倚って、もういちど感嘆のこえをあげながら暫く眺めていたが、「おねだりが一つ殖えました」