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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
それから後はさらに親しさを増したというようすで、金之助の部屋へ来てはよくいろいろな話をした。彼は祖母から貰った青銅の手鏡を持っている、さしわたし四寸ばかりの八花形の漢鏡で、日光を反射させると竜紋が現われる。珍しいので友達なかまにずいぶん欲しがられた。いつも桐の小箱へ入れて床間の違棚に載せてあったが、由利江もそれをみつけて、来るたびに日光を映してはよろこんでいた。そのようすが余りいじらしくみえたので、欲しければあげようと云ったところ、由利江はびっくりしたように眼をみはってこちらを見た。
――本当に下さいますの。
――本当にあげるよ。
こう云うと、ちょっと首を傾げて考えるふうだったが、ふと頬を赤くし、しさいらしい口ぶりで静かにこう云った。
――では由利がもっと大きくなってから頂きますわ。それまでどこかへ納っておいて下さいまし。
そしてすぐに袱紗で包み、箱へ入れて、大切そうに紐をかけてしまった。それはもう夏も終りに近いじぶんだったと思うが、たぶんその前後のことだろう。庭から来て、いつものように広縁へ腰を掛けて、暫くじっと植込のほうを眺めていた。ふと溜息をつくようすなので、金之助がどうかしたかときくと、彼女はおとなびた表情で次のように答えた。