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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
母達はそこに私ひとりを置き去りにして、もう帰って来ないのではなかろうかと。私はわあわあ声に出して泣きながら、小屋の中を駆けずり廻った。やがて、母達は散歩から帰り、兄はまた獲物を持って引き上げてきたが。
震災で焼け出されて、向島の親戚の家に厄介になっていた頃、母は毎日のように外出したが、帰りが夜おそくなることが度々あった。私はそのつど母のことが心配になり、家にじっとして待っていることが出来なかった。私は隅田川を通う蒸気船の発着所まで出向いて、そこにあるベンチに腰かけて、母の帰りを待った。いくつか船を見送った後で、ようやく母の顔を見出しては、ほっとして共に帰った。母を迎えに行く途中、隅田堤を通ってくるが、堤の下にある二階家の明りのついた障子の中から、酒に酔った男達の騒ぐ声が聞えてくることがある。そんなとき私には、その中で母がいじめられているのではなかろうかという妄想が起きてくるのだった。
母は私が二十の年に死んだ。母も亥年、私も亥年で、丁度二廻り違うのだから、四十四で世を去ったわけになる。その頃、台湾にいた母の長兄のもとから、嫂に当る人の悔状が届いたが、母のことを、遂に幸福の太陽が昇るのを見ずに世を去った、そう云ってあったのを私は読んだ。