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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
安い頭
下谷の竜泉寺町という町の名は、直接その土地に馴染のない人にも、まんざら親しみのないものでもなかろう。浅草の観音さまにも遠くはないし、吉原遊廓は目と鼻のさきだし、お酉さまはここが本家である。若しもその人が小説好きであるならば、「たけくらべ」にゆかりのあるこの町を、懐かしくも思うであろう。だいぶまえのことであるが、一葉の記念碑がその住居の跡に建てられて、電車通りにある西徳寺で、故人を偲ぶ講演会が催されたことがあった。馬場孤蝶、菊池寛、長谷川時雨の三人が来て話をした。故人と昵懇であった孤蝶老が、往時一葉が子供相手に営んでいた一文菓子屋のことを、「如何にも小商売」と云った口前を、私はいまなお覚えている。私はまたそのとき初めて菊池寛の風貌をまのあたりにした。時雨女史が自分のことを「私のようなしがない者が」というような謙遜な言葉づかいをしたとき、私の隣りに腰かけていた若い女性が「まあ、いやな先生。」という嘆声をもらした。時雨女史の知合いであったのだろう。みなむかしの夢である。昭和二十年の三月十日に空襲に遭って、この町も無くなってしまった。吉原土手のへりにわずかに一郭焼け残っているに過ぎない。