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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
母が甲斐がいしい姿で洗濯していたさまが、いまも目に浮かぶ。母は洗濯しながら、外を通る人と、よく話をしていた。私の家の持家の長屋にいた、茂ちゃんという子が、木柵の外から顔を覗かせて、母に向い、「おばさん。ぼくの鼻は胡床をかいているでしょ。」と云った。「剽軽な子だよ。いまに落語家にでもなるんじゃないか。」と母は云っていた。
木柵の外を、豆腐屋や納豆屋が荷を担いで通った。また、格子戸をあけて御用聞がきた。豆腐屋は恵比須さまのような顔をした、いつも世辞笑いを浮かべているおじさんだった。「とうふイ。」と云う売り声も、いかにもいい声で、当人も気持よさそうであった。この豆腐屋の店は、その頃、お酉さまの裏にあった、俗称「みきや長屋」という処にあった。みきや長屋は、芝の新網、下谷の万年町ほどではないが、界隈に聞えた貧乏長屋であった。母が、「豆腐屋さんのお店は?」と訊いたら、口籠っていた。「みきや長屋の近く?」と訊いたら、「へえ。そのみきや長屋で。」と云った。雨の日には、菅笠をかぶってきた。よく似合っていて、まるで忠臣蔵の与市兵衛でも見るようであった。納豆屋は五十がらみのおばさんで、手拭をかぶり、手甲、脚絆に身を固めていた。