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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
公園と云うよりは桜林と呼ぶ方がふさわしかったのである。草深くて、ささやかながら私たち町っ子の渇を癒すに足るだけの「自然」がそこにはあった。池の面も南京藻がいっぱい浮かんでいて、ちょっと雨が降ればすぐ水が溢れた。私の子供の時分にも小さい出水は毎年あった。私自身溺れかけたこともあり、また休暇に遊びに来た兵隊さんが誤って池に堕ち遂に帽子を発見出来なかったという話もある。夏ともなれば私たちは草いきれを嗅いでとんぼ採りに寧日がなかった。桜林と廓外との境には丈の高い木柵がめぐらしてあった。柵の向うは廓外のしもたやの縁先になっていて、葡萄棚やへちまの棚があって、柵には朝顔の蔓なんかが絡みついていた。私たちは朝まだき、露で下駄を濡らしては、よく朝顔の花を盗ってきたものだ。私の家はちょうど桜林の入口のところにあったので、二階の窓から上野の山や浅草公園の十二階が見えた。おそらく晴天の日には遠く富士も見えたような気もするが、はっきり記憶には残っていない。低い土地であったから、むかしの錦絵に見るようなわけには行かなかったかも知れない。
私の家はもと京町二丁目で兼東という名で貸座敷業を営んでいたが、祖父の代に店を人に譲った。