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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
」私は子供の頃、ハヤシライス位旨いものは知らなかった。
その頃吉原ではたいていの家が都新聞を読んでいた。ちょうど「大菩薩峠」が連載されていて、私の家でもみんな愛読していた。おそらく新聞の読物としては、これほど作中人物が読者に馴染深く親しまれた小説も少ないのではないだろうか。竜之助、兵馬、お松、お君、お銀様、米友、七兵衛、それぞれに贔屓があった。子供の私は兵馬が好きで早く竜之助を討たせてやりたかった。祖父はまたムク犬がお気にいりであった。都新聞にはほかに誰が担当していたのかは知らないが、「見たり聞いたり」という欄があって、これは祖母が毎日楽しみにしていて、長火鉢の傍で老眼鏡をかけて音読していたのを覚えている。
お糸さんが家に来てからは、父のためにはお糸さんが午前中稽古の客の来ない折りに読んで聞かせていた。蔵の二階の稽古場でお糸さんが読んでいるのを、私は梯子段の中途に腰かけてこっそり聞いたこともある。「巧く仕組んでいるものだね。」とか、また三面記事でも読んでもらっているのであろう、「可哀そうに。」と父が云うのが聞えることもあった。お糸さんはまた父のために新聞のほかにも本を択んで、暇をみては日課のようにして読んで聞かせていた。