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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
振り向くとイエが立っていた。――私は久しくイエを見なかった。イエはその頃一年も家に稽古に来なくなっていた。席亭なども他の弟子達と顔をつらねることはまれになっていたようである。どんなわけがあったのでもなかった。いつかそんな風になってしまっていた。古参の姉弟子との間がうまくいかなかったというが、とりわけて反目するというわけでもなかったのだ。一体に弟子達の間では妙にイエはうけが悪かったのである。それほどひとの反感を買う質でもないのだが。また稽古には身を入れる方だったが、他を凌ごうという気性は本来イエにはないものだったし。事実その後イエの芸には格別の上達も見られなかったようである。年若かなのと器量のいいのが相応に人気を喚んだようだが。ただこんな風聞が伝わっていて、少年の私も自分の耳に判る程度には聞いていた。女のことでとかくの評判のある、ある若手の三味線弾きにイエの方で夢中になっている、そんな噂が。「越喜代さん、大分入り揚げてるって話ですよ。」家へ来てそんな陰口をきいていく女弟子もあった。弟子達の口からイエの名をきくと祖母は露骨に顔を顰め、よしないものに軽率に名を遣ったことの愚痴を漏らすのがきまりだった。