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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页

青空文庫

私もまだ稚かったのである。イエからそんな言葉をきくことが擽ったかった。なんだか自分がいい男のように云われたような気もした。イエは芝居を見に来ないかと誘い、いつでも楽屋へ訪ねてくるように云った。沢正の名は少年の私の心を誘ったけれど、私は気持が進まなかった。そうしたところでイエの語るのを聴くのはいやだったのだ。

別れ際だった。「どうして稽古に来ないの?」と私が云ったら、イエはただ笑っていた。少年の私にはイエの表情を捉えることは出来なかった。イエは甘栗の大きな包みを買って私に持たせ、「お師匠さんによろしく。」そう云った。

翌年の新学期がきて私はまた学校へ行くことになった。尋常よりは二年遅れてそうして二度目の三学年を学び直すわけであった。一緒に入学した友達はもう五年になっていた。学校で旧友と顔を合わせるのは流石に面伏せな気がしたが、でも私はなんの焦躁も感じなかった。いつか生涯の方向が自分の心の中だけでおぼろげに予感されていた。私は依然として学業をなおざりにし、私の不成績は母の心を曇らせた。「よその本ばかり読んでいてしょうがありません。」親戚のものなどが来ると、母は私のことをこぼしたけれど、でも私が買いたい本があるのだと云うと、身分不相応に小遣いをくれたものだ。