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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
はじめのときは、嘉吉がその前を通りかかったら、いきなり呼びとめられたのである。
「なんと云うかと思ったら、死相が出ているなんて云うんだ。威かすじゃないか。」
「まあ。嫌ねえ。」
「それは冗談だろうがね。おれがあまり心配そうな顔をしていたもんだから、呼びとめたんだろう。きょうみてもらったら、死相は消えたそうだ。」
「当り前じゃないの。」
「あの占いやさん、人の好い佗しそうな顔をしているねえ。折角奮発しなさいって云ってくれたよ。」
死相が出ている。嘉吉には冗談には思えなかったのである。その日頃の困憊した気持が顔に出ていることは、自分でもよくわかっていた。おかみさんから立退きを迫られて、宿さがしをしてみたが、周旋屋の紹介状を持って尋ねた先では、どの家でも既に塞ったようなことを云った。嘉吉にはそれが言葉通りには取れず、自分の人体が先方に受け入れられなかったとしか思えなかった。自分がなんだか世の中そのものから締出しを食わされている人間のように思われた。たかがそれほどのことで、死相が現れるなんて意気地のない話かも知れないが、けれどもまた、もっと些細なことでも、人は躓くかも知れないのだ。