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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页

青空文庫

入浴をしてきた午後のこと、その時の舎房の看守が私達に「お前達はいいなア。」と云い、休みの間の私達が気楽な身分だということを云った。入浴後で体は暖かかったし気は大きく、このあたたまった体で、仕事はなし、読書をする、その幸福感から私はにやにやして、「おかげさまで。」そんな言葉が口から出た。その看守の人は私をチラと見て、苦笑を漏らした。蔑しむような眼色だった。ふだん神妙そうな顔をしている私がそんな馴れた口をきいたのをおかしく思ったのだろう。他の舎房にこの七日かそこらに出所する者がいた。私には彼がとても羨やましく思われた。もうすぐ出られる身でここの正月を味わってゆく身の上が羨やましく思われたのだ。その正月の楽しさは格別なものがあろうと思った。彼のような場合でこそ愉しく味われたことだろう。過ぎた後の先きに控えている事を思って、心の曇ることもないのだから。自分にはない心の余裕が羨やまれ、私はそんな、懶け者らしい、呑気な羨望の念を持ったりしたのだ。

正月も過ぎた。いつかまた私の心はこちらに住みついていった。またかえってきて、私は別にその人にこだわらないでいられた。