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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页

青空文庫

いまの境遇を厭い、日々をつらく感ずる気持は出る間際まであった。私の同房者にその三月に出所した一人の年寄があったが、出所する前日まで、いやだ、いやだと身を震わせていた。あとまだ長くそこにいなければならない仲間の者の前で、その年寄の姿はいやらしい感じだった。私は、私文書偽造とかいう罪であるというその年寄が、彼の人に向う気持に信ぜられないものが感ぜられて、好かなかった。私はその年寄のそんな身振りを、やっている、という気持で見た。

「あなたなんか、もう平気なものでしょうね。」

すると、彼は、「ははア、そんなものかな。」とこちらに思わすような眼色を見せて云った。

「反って辛いもんですよ。一日も早く出たいもんですよ。」

自分が出所近い身になって私は、彼の言葉もまんざら嘘ばかりではないと思った。しかし私には、彼や私のような堪え性のないのは、やはりいやらしいことに感ぜられた。

もうあと二十日ほどになった日のこと、七八〇番が私に笑いながら云った。

「修養が出来たかね。」

「だめです。里心がついていてね、帰心矢の如きものがあってね。」

……私は反省もなく自分をエゴイストだなどという口はききたくない。