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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页

青空文庫

そうだ、たしか犬も連れていたようだ。はじめ犬が私の寝ているまわりをうろうろして、その気配に私が身を起したような記憶がある。男の一人が私に「なにをしている?」と訊いた。「寝ているんだ。」と私は答えた。男はこんな処に寝ていては死んでしまうと云った。私はそのとき、それほど寒いとは思っていなかったのだが。

それから私はその人にその家に連れて行かれた。電灯の下で見ると、思いがけないことには、その人は印度人であった。年は六十位で、そう、一寸ビスマルクのような立派な顔をしていた。けれども、奥さんは日本人であった、息子が三人いて、いちばん末の人が私より一つか二つ年上で藤沢の中学校に行っているようであった。私は奥さんを見て、その少し前に築地小劇場の舞台で見た「叔父ワーニャ」に出てくる婆やにそっくりだと思った。奥さんはあの婆やのように優しくて、そして声もなんだかあのときの女優の口跡そのままのようだった。奥さんは私に向ってまじめに、「こんな可笑しな暮らしをしています。」と云った。自分達夫婦のことを。その家庭のことを。私のような年の行かない者に対して。また、私のような事情で自分の家に一夜の宿を借りたような者に対して。