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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页

青空文庫

私はしばらく前、酔興に手相を見てもらったことがあるが、そのときその大道易者は仔細らしい顔をして、四十までは商売換えをしない方がいいと云った。私はその後も思い出すたびに可笑しかったものだが、いま、そのことを口にのぼそうとして、ふと気が変った。私は照れくさいのをこらえ、また彼女から嗤われるかも知れないと気づかいながらも、

「僕は、あの、小説家になりたいと思っているんだ。」

自分の顔が紅葉を散らした如くになったのが、自分でもわかった。私は自分の照れくさい気持に恰好をつけたく、

「ほら、浪六ね、知っているだろう。つまりああいうものさ。」

私はいつぞや彼女から雑誌の代りに浪六の「元禄女」を借りて読んだことがあったのだ。彼女は黙ったままうなずいたが、私が懸念したような侮りの色は見えなかった。

「あたし、前からあんたはなにか勉強していると思っていたわ。」

私を買い被ってくれていた人が、思いがけないところにいたというわけなのである。

夏のこと。

私も酒を嗜む。盃に三杯が適量である。その日は少し呑み過ごした。店で朋輩たちと酒盛りをして、集金のおばさんから勧め上手にさされるままに、うかと盃の数を重ねてしまったのである。