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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
たとえば山の手などでは、門口にとりつけた郵便箱などに新聞を入れてくるだけの話なので、一年配達しても二年配達しても、その家の主人がどんな顔をしているのか知らないというような場合もあり得る。つまり水臭いわけである。ところがこれが下町になると、それも竜泉寺界隈のような処だと、みせやが多いし、またしもたやでもがらっと門口をあけると一目で家内中が見渡されるような家がざらなので、毎日のことではあるし、自然親しい口をききあうようになるのである。私たち配達もやはり普通の商人のように自分の購読者のことをお得意と呼んでいた。昔の小学校の読本に確かこんな文章があった。「米屋の隣りは魚屋です。魚屋の隣りは八百屋です。その角を右に曲ると、呉服屋があります。」私もこの調子で、かたっぱしから自分のお得意を読者に紹介しよう。配達は各自順路帳というものを持っている。自分の配達区域のお得意の名前を、配達して行く順序に従って記録した帳面である。私はいま古いアルバムの頁でも繰るように、記憶の中にある順路帳を一枚一枚めくって行こうと思う。そんなことをしていたら夜が明けてしまうではないかと危ぶむ人もあるであろうが、世には千夜一夜という物語もあることだし、語り尽くせぬところはまた明晩のお楽しみということにして、懐旧の情の赴くままにわがままに筆を運ぶ