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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
小山清『落穂拾い・犬の生活』。同一底本的分册已合并为一书。收入:落穂拾い、犬の生活、夕張の宿、生い立ちの記、桜林、西隣塾記、聖アンデルセン、前途なお、早春、その人、遁走、朴歯の下駄、安い頭、わが師への書、メフィスト。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,741 字 · 486 页
その隣りは藤田という医院であったが、この医院の表に一葉の記念碑があった。むかし一葉が子供相手に一文菓子などをあきなっていた住居の跡は、だいたいこの見当であろうという土地の古老の記憶にもとづいて、ここに建てられたのである。医院の窓下には半坪ほどの体裁ばかりの庭が囲ってあって、碑はそこに在った。碑の傍には恰好な樹木が植えてあったが、私はそれがなんの樹であったか、覚えていない。碑面には、かつて一葉がこのところに住んで「たけくらべ」を書き、いま町民が故人の徳を慕ってこの碑を建てた、一葉の霊も来り遊ぶであろうという意味の菊池寛の文章が小島政二郎氏の筆蹟で刻まれてあった。この碑は勿論空襲の際に破壊されたと思う。藤田医院には土地柄廓の妓たちなども診察を受けにきていた。私はここの先生の顔は知らなかったが、私が懇意にしていた電車通りに古本屋を開業していた飯田さんの話によると、絵が好きで時々飯田さんの店に絵の本を漁りに来るということであった。そう年寄りの先生ではあるまい。
藤田医院の隣りは染物屋で、その隣りは森という煙草屋を兼業している文房具店であった。この文房具店にはチョビ髯を生やしたキョロリとした眼つきの親爺がいた。