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いもがゆ

薯粥

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页

青空文庫

かくべつどこに惹きつけられたというのでもないその男を見ているだけで、なにやらゆたかにおおらかな気持が感じられたのである。

「当藩には、いま梶井図書介という新蔭流の師範がいて、家中の教授をしておる、けれどもこれだけでは、家中ぜんぶに充分の稽古はつけられないし、もしも適当な師範がいて別に教授をすれば、却って互いに修業のはげみともなるので、実はしかるべき兵法家を求めたいと思っていたところだった、尤もすぐ師範としてお取立てになるとは申しかねる、当分のあいだは町道場として稽古をつけて貰わねばなるまいが」

「失礼でございますが、わたくしがお願いに出ましたのは、仰せのおもむきとは少し違うのでございます」十時隼人は、ちょっと具合がわるそうに惣兵衛の言葉をさえぎった、「わたくしは足軽衆のうちからその志のある人々にかぎって稽古をつけたいのでございます」

「ほう、足軽にかぎって」惣兵衛はにがい顔をした、「それはどういう仔細か知らぬが、さむらいには教授せぬというわけなのだな」

「わたくしは兵法家ではございません、教授などという人がましい技は持ちませんので、ただ御城下に住居させ頂く御恩の万分の一にもあいなればと存じ、おのれの分相応にいささかのお役に立ちたい考えだけでございます」