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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
どこの小屋ではなんの狂言を上演するのは禁物で、それを上演すると何かの不思議があるとか、どこの小屋の楽屋には誰かの幽霊が出るとか、いろいろの怪しい伝説があるものだが、シナは怪談の本場だけに、田舎の劇場などにはやはりこのたぐいの怪談がたくさんあるらしいよ。」
「そうだろうな。」
「そのなかにこんな話がある。」と、K君は語り始めた。「前清の乾隆年間のことだそうだ。広東の三水県の県署のまえに劇場がある。そこである日、包孝粛の芝居を上演した。包孝粛は宋時代の名判官で、日本でいえば大岡さまというところだ。その包孝粛が大岡捌きのような段取りで、今や舞台に登って裁判を始めようとすると、ひとりの男が忽然と彼の前にあらわれたと思いたまえ。その男は髪をふりみだし、顔に血を染めて、舞台の上にうずくまって、何か訴えるところがあるらしく見えた。しかし狂言の筋からいうと、そんな人物がそこへ登場する筈はないから、包孝粛に扮している俳優は不思議に思ってよく見ると、それは一座の俳優が仮装したのではなくして、どうも本物らしいのだ。」
「本物……幽霊か。」と、わたしは訊いた。
「そうだ。どうも幽霊らしいのだ。