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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
ある時、かれは両国の橋番の小屋に休んで、番人のおやじにその述懐をすると、おやじも一緒に溜息をついた。
「御同様に運のない者は仕方がない。だが、おまえの方がわたしらより小銭が廻る。その小遣いを何とかやりくって富でも買ってみるんだね。」
「あたるかなあ。」と、平吉は気のないように考えていた。
「そこは天にある。」と、おやじは悟ったように言った。「無理にすすめて、損をしたと怨まれちゃあ困る。」
「いや、やってみよう。当ったらお礼をするぜ。」
「お礼というほどにも及ばないが、この放しうなぎの惣仕舞でもして貰うんだね。」
ふたりは笑って別れた。その以来、平吉は無理なやりくりをして、方々の富礼を買ってみた。
「どうだね。まだ放しうなぎは……。」と、橋番のおやじは時どき冗談半分に訊いた。
平吉はいつも苦い顔をして首をふっていた。それがいよいよきのうの湯島の富にあたって、けさその天神の富会所へ行って、とどこおりなく金百両を受取って来たのであるから、彼は夢のような喜びと共に一種の大きな不安をも感じた。自分が大金を所持しているのを知って、誰かうしろから追ってくるようにも思われて、かれは眼にみえない敵を恐れながら湯島から本所までひと息に駈けつづけた。