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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

無論に酒も持って来いと言った。

座蒲団のうえに坐って、平吉はがっかりした。彼はけさからちっとも落ちついた心持になれないで、唯せかせかと駈けずり廻っていたのである。からだも心も一度に疲れ果てたようで、彼はもう口を利くのも大儀になった。それでも、酒や鰻が運び出されると、彼はまた元気がついて、女中を相手に笑ったりしゃべったりした。女中に一朱の祝儀をやった。かれは空腹のところへ無暗に飲んで食って、女中に扶けられてようように二階を降りたが、もう正体もなく酔いくずれて、足も地につかないほどになっていた。

「平さんはあぶない。すぐ近所だから送っておあげよ。」と、帳場にいる女房が見かねて注意した。

祝儀を貰った義理もあるので、女中はかれの手をひいて表へ出ると、月のひかりは地に落ちて霜のように白かった。路地のなかまで送り込むと、その門口には一人の女が人待ち顔にたたずんでいた。

あくる朝になって、この長屋じゅうは勿論、町内をもおどろかすような大事件が発覚した。平吉は奥の三畳で何者にか刺し殺されていた。入口の四畳半の長火鉢のまえには、二人の大の男が血を吐いて死んでいた。