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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
その六、七人が甚七の声におどろかされて駈け集まって来た。相手が城内の侍とわかって、かれらはいよいよ驚いた。用意の松明に火をとぼして、市五郎の倒れている場所へかけ付けると、彼は鼻や口からおびただしい血を流して、上下の前歯が五本ほども折れていた。市五郎は怪物のために鼻や口を強く打たれたらしい。取りあえずそこから近い農家へ運び込んで、水や薬の応急手当を加えると、市五郎はようように正気づいたが、倒れるはずみに頭をも強く打ったらしく、容易に起き上がることは出来なかった。
これには甚七もひどく困った。城内へ帰って正直にそれを報告する時は、いかにも自分たちの武勇が足らないように思われるばかりか、無断で海馬探検などに出かけて来てこの失態を演じたとあっては、組頭からどんなに叱られるか判らない。さりとて今さら仕様もないので、彼は市五郎の看護を他の人びとにたのんで、自分だけはひとまず城内へ戻ることにした。戻ると、果して散々の始末であった。
「お留守をうけたまわる身の上で、要もない悪戯をして朋輩を怪我人にするとは何のことだ。侍ひとりでも大切という今の場合を知らないか。」と、彼は組頭から厳しく叱られた。