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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

権七は三十一歳で、おいねは年上の三十七であった。新聞の記事によると、おいねは旧幕臣の安達源五郎の妻で、源五郎は越後へ脱走するときに、中間の権七に供をさせて妻のおいねと娘のおむつを上総の親戚の方へ落してやったが、源五郎戦死の噂がきこえて後、おいねと権七の主従関係はいつか夫婦関係に変ってしまった。それには親戚の者どもの反対もあったらしく、おいねは娘のおむつを置き去りにして、若い男と一緒に上総を駈落ちして、それからそれへと流れ渡った末に、去年の春ごろから東京へ出て来て、片門前に小さい古道具屋をはじめたのである。

権七は小才のきく男で、商売の上にも仕損じがなく、どうにか一軒の店を持ち通すようになると、かれは年上の女房がうるさくなって来た。殊においねは旧主人をかさにきて、とかくに亭主を尻に敷く形があるので、権七はいよいよ気がさして来た。目と鼻のあいだには神明の矢場がある。権七はそこの若い矢取り女になじみが出来て、毎晩そこへ入りびたっているので、おいねの方でも嫉妬に堪えかねて、夫婦喧嘩の絶え間はなかった。

その晩もいつもの夫婦喧嘩から、一杯機嫌の権七は、店にならべてある商売物のなかから大工道具の手斧を持ち出して、女房の脳天を打ち割ったので、おいねは即死した。