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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
吉之助は小野という若い薬局生と玄関のわきの六畳の部屋に同居して、本郷辺にある学校に通いながら、かたわらに薬局の手伝いなどをしていた。
前置きの説明がすこし長くなったが、これだけの事を言って置かないと、あとの話が判らなくなるおそれがあるから、まあ我慢してもらいたい。とにかくに溝口の家にお蝶という娘のあるところへ、さらにお筆という娘がはいり込んで来た。表長屋には矢田友之助という若い男がいるところへ、さらに溝口家に上林吉之助という若い男がはいり込んで来た。若い娘ふたりに若い男ふたり、それが接近していては、どうも無事に済みそうもないのは誰にも想像されるであろう。
しかし表面はきわめて無事円満であった。吉之助もおとなしく勉強していて、溝口一家の信用を傷つけるようなことはなかった。お筆もお蝶と仲よくして、小間使のように働いていた。友之助は無事に役所へ出勤していた。この年の十月には政府に大更迭があって、大隈重信が俄かに野にくだった。つづいて板垣退助らが自由党を興した。それらの事件も、溝口と矢田の両家にはなんの影響をあたえないで、両家は依然として平和に暮らしていた。