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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

二月の紀元節の夜にいよいよ婚礼ということに相談が進んで、溝口矢田の両家ではその準備もおおかた整った一月二十九日の夜の出来事である。やがて花嫁となるべきお蝶が薬局の劇薬をのんで突然自殺した。もちろん商売柄であるから、溝口もいろいろに手を尽くして治療を加えたが、それを発見した時がおくれていたので、お蝶はどうしても生きなかった。

婿と嫁と、この両家のおどろきは言うまでもない。婚礼の間ぎわになってお蝶がなぜ死んだのか、その子細は誰にも判らなかった。どの人もただ呆れているばかりで、暫くは涙も出ないくらいであったが、なんといってももう仕方がないので、溝口家からは警察へも届けて出て、正規の手続きを済ませてお蝶の亡骸を四谷の寺に葬った。溝口家からは警察にたのんで、事件を秘密に済ましてもらったので、お蝶の死は幸いに新聞紙上にうたわれなかった。

お蝶は一通の書置を残していたので、それが自殺であることは疑うべくもなかったが、その書置は母にあてた簡単なもので、自分は子細あって死ぬから不孝はゆるしてくれ、父上にもよろしくお詫びを願いたいというような意味に過ぎなかった。したがって、死ななければならない子細というのはやっぱり不明に終ったのである。