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ひょうしゃくかんにんき

評釈勘忍記

山本 周五郎

「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页

青空文庫

今日は、今日はと十遍も云ってから「よし今日は晩飯に鰻を食おう」と呟いた。鰻うなぎと下城するまでにしゃにむに鰻のことを考え続けていた彼は、家へ帰るなり家僕にそれを命じた。ところが一言のもとにはねつけられたのである、「この土地には鰻なんかあござりやせん」にべもない返辞だった。だい体この秀六という家僕は横着な怠け者で、否、――それどころではない、その時玄関へいなり山から使いが来て「皆様が待ち兼ねている」ということを息せき切って伝えた。千蔵は思わずああしまったと呻き、着替えもそこそこ家をとびだした。まえに記したとおり宇野のかな女とは既に婚約ができ、十一月には祝言をする予定であるが、そのまえにいちど会って風貌性格を知って置きたいという要求から、その日の会合が企画されたのだ、但しその「要求」は彼のものではなくかな女の提出にかかるものであって、率直に云えば「会合」ではなく一種の「召喚」だったのである。千蔵がこの事実をどう考えたかは云うまでもあるまい、然し彼は勘忍袋を片手に緊めて、須井栄之助と一刻以上の遅刻と水練と鰻とかな女のことで頭をいっぱいにしながら伯父の家へと駆けつけた。