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ひょうしゃくかんにんき

評釈勘忍記

山本 周五郎

「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页

青空文庫

なにしろ千人力である、城中で聞えよがしな蔭口を耳にしても、通りすがりに態と突当られても、牛の革で出来た袋はもうびくともしない、役所での彼の席は段だん隅のほうへ押詰められ、小頭たちがまん中へのさばり出てきた、いいじゃないか、席が逆になったって天変地異が起こる訳もなかろう、富田弥六は立派な顎だし、有賀子之八は隅になんぞいられる躯じゃない、「人間は勘弁と折り合が大切だ、そこで初めて世の中が泰平無事におさまるんだ」――いかにも、泰平無事ほど結構なものはない、人類永遠の理想は恒に自由と平和であるから、然しこれほど求めて得難く、求め得て永続きのしないものはない、筆者は永遠の平和を信じない如く革袋の正札も信じないだろう。なぜなら「正札」はいつでも付替えられる仕掛けになっている物だからである。果して、革袋の正札の剥げる日がやって来た、付替えではないさっぱりと※(「てへん+毟」、第4水準2-78-12)り取られる日が――。

残暑の返ったような暑い日のことだった。城から家へ帰って来ると、千蔵の居間に家僕の秀六がごろ寝をしていた。肱枕で長ながと寝そべって、好い心持そうに鼾までかいて眠りこけていた。