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ひょうしゃくかんにんき

評釈勘忍記

山本 周五郎

「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页

青空文庫

千蔵の腋の下に冷汗がにじみ出て来た、これは勘忍袋が温和しくなって以来の生理現象である。

「まあいい、――」彼は暫く家僕の寝ざまを眺めた後でこう呟いた、「秀六だって同じ人間だ、たまには風のよく通る広い部屋で午睡もしたかろう」

それから足音を忍ばせて静かに寝間へゆき、着替えをして、汗でも拭こうと裏へ出た。そして井戸端で半※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)へ水を汲み、顔を洗おうと跼んだ時である。彼は水の面へ妙な人間の顔が写るのでぎょっとし、急いで後ろを振向いた、もちろん誰がいる訳でもない、そこで改めてよく見るとどうやら自分の顔のようである、たしかにどこかしら見覚えがある、「おれの顔だ」と云い張る自信もないが、「おれの顔じゃない」とも云い切れない。千蔵は不安になった。手拭を抛りだしたまま急いで寝間へ戻り、長持の中から鏡を取出した、縁側の明るい処へいって坐り、熟づくと鏡の面を瞶めたが、半※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)の水面に写ったのと少しの違いもない、「慥かにこれはおれだ、――が、これは決しておれの顔じゃない」