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ひょうしゃくかんにんき
評釈勘忍記
山本 周五郎
「新読物」公友社、1947(昭和22)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,889 字 · 36 页
人がその躰内から一種の瓦斯体を排泄するときの如く、顔を赧くして力み、歯をくいしばった。
「どうした、殴り返さないのか――」
「な、ぐ、り、ま、せん」千蔵は、歯と歯の間からこう答えた、「伯父上には、手は、挙げら、れ、ま、せ、ん、から」
「いい心掛けだ、それならまだ望みはある」紋太夫は手を膝へ戻した、「おまえの短気は世間知らず苦労知らずと云った、詰り自分の感情に走って相手のことを考えない、紙の表を見て裏を見ない、凡てに思慮が一方的だから短気が起こるのだ、この雨は鬱陶しい、むしゃくしゃする、然し農家などにはこの雨が天の恵みだ、雨具商人、辻駕人足などもさぞ儲かるだろう、まあ降るだけ降るがいいとこう考えてみろ、気持は軽くなるし癇癪も起こらないで済む」
「はあ、――」
「いまおれに殴られて伯父だから殴り返せないと云うが、なぜおれが殴ったかということを考えてみないか、殴られるようなことを昔おれにした覚えはないかどうか」
「むかし、――」と云いかけて千蔵はああと唸った。汁椀の中の蜻蛉、厠の窓から投込んだ西瓜、ひっくりかえった半※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)、その他あらゆる悪戯の数かずが毀れた玩具の転げ出るような具合に、ずらずらと記憶から跳びだして来たのだ。