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てつのしょじょ

鉄の処女

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页

青空文庫

子供はありませんでした。伯父は伯爵家なんか相続せずとも、俺の家を継げばいいじゃないか、爵位なんかに縛られて狭い日本で暮らしたって始まらない。金さえあればどこへ行ったって面白可笑しく自由な生活が出来ると申します。なるほど伯父の家は大変な金持でした。

軈て東京から弔電が来たり、死亡広告が大きく出た新聞を送って来たりしました。継母は日々泣き悲しんで、大切な相続人を当人の希望とはいえ、南洋なんかへやるんじゃなかったと悔み、これが弟の方だったらまだあきらめもつくが、と歎いた手紙をよこしました。私はちょっと痛快でした。早速遺骨になりと逢いたい。弟が自身で受取りに行くと申してきかない、などという音信がある度毎に、自分の死んだ後のありさまを、目のあたりに見る愉快さに、夢中になって居りました。

弟に来られては大変だというので、早速死んだ苦力の白骨を、伯父が携えて上京したものです、私は自分の狂言がうまく当ったのに北叟笑んで、その後の成り行きを眺めておりました。

そして相変らず遊んでいました、土人の娘を引張って来たり、西洋人と同棲してみたり、放蕩のかぎりを尽していたのですが、そういうただれた私の魂にも、一つ忘れられない清らかな、心を洗われるような想い出があったのです。