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てつのしょじょ
鉄の処女
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页
しかしまたこうも考えるのです。智恵子は病気じゃないか知ら、上野で会った時も顔色は余りよくなかった。そう思うとこんどはまた違った意味で心配になり出します。
ある夜、私は思案にあまって遂々伯爵の邸内に忍び込みました。
来客があったと見えて、方々の部屋には灯がついていましたが、夜が更けていたので中は森としていました。私は家の中の案内はよく知りぬいているので、こんもりとした植込みを通りぬけ、泉水をまわって智恵子の居間の方へ行きました。
幸いそこの一つの窓のブラインドの下の方が二寸ばかり開いていましたので、私はじっと室内を覗き込みました。
客の帰った後で夫婦は暖炉にあたりながら、頻りに話し合っていました。が、二人の顔には云いようのない当惑の色がただよって見え、何となく憂鬱な空気にとざされていました。殊に智恵子は一ヶ月余り見ない間にすっかり瘻れ果てて、物凄いように青ざめていました。私は中の話を聞こうとして硝子に耳をぴたりとつけて、きき耳を立てていました。
『私はどうしてもこの儘ではいられません、何もかも分った今、貴方のお心が翻えらなければ、私には私の決心がございます』