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てつのしょじょ
鉄の処女
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页
智恵子の声は悲痛を帯びていました、弟は吸いかけの葉巻をポンと暖炉の中へ投げて、眉を深く寄せながら云いました。
『今更そんな馬鹿なことが信じられるか。兄はあの時死んだんだ、遺骨まで届いて、立派に葬式もすませている、兄は確かに死んだんだ。この世にいないんだ、いいか。分ったか。もう二度とその話はするな』
『でも生きていらっしゃるんですもの。私はすっかりお話を聞いてしまったんですから、貴方がどうしても私の言葉をお信じ下さらないなら、お兄様をお連れしてまいりましょう』
『今頃兄だなんて、突然現われて来たって誰が信じる。そんなくだらない事に取り合っちゃいられない、もうお前もそんな馬鹿げた事を真面目になって、心配するのは止しなさい。兄は本当に生きているはずはないんだからな』
『だって確にこの眼で見て、この耳でお声を聞いたんですもの』
『空耳ってこともある、幻想を見ることもある。この世に生存していない人間が見えたりするようじゃ、よほどお前も気を落ち付けないといけないぞ』
『狂人だと仰しゃるの? ついでに私も精神病院へ入れておしまいになるといいわ、一生涯の扶持をつけて――』