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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

――なんという無知通俗なやつらであるか。

吾助は、つい憤激せざるを得なくなった。おまえさんそれでも人間かえ、こう云っていたのが、やがてはそんなことではもの足りなくなり、

「おまえたちは書画にも刀剣にも劣った、人間の皮をかぶった薪ざっぽだ」

などとつい心にあるようなことを口走るようになった。最も晦渋を極めたのは、かの銀太金太の二人の若者のばあいである。前述の如く、両名はこの長屋で出生してこの長屋で育成し、幼年期、青年期と通して、親密に月日を送った。

片方が両親を亡くせば、片方もまた二親を亡くすというくらい、いわゆる水魚の交わりであって、現在では長屋の一戸に共同で住み、共同で駕舁き業を営んでおる。で、両名としては、繩屋吾助が此処へ移住して来るまえからの住人であり、繩屋一家が食うや食わずの生活から、今日に到るまでの経緯を観察しているので、

――あの成り上りの繩っ屑。

斯様にてんから軽視していた。自然吾助が調査訪問に来て、源左衛門常世以来の系図を展開し、祖先血統の質問に及んだときは、終始両人の臍が茶を沸かしたということである。

「ええありません、そんな奇天烈なまやかしものは、あっしゃあでえ嫌えでね、憚りながらこれでも辻駕を担いでまっとうに食ってるんだから、そんなももんがあみてえな物にゃあ用はありやせんッさ」