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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
「そんな愚かな、その、これはももんがあとかまやかしものとか、そんなその、……では聞くのだが、おまえの親父はなに者だ」
「親父ってちゃんのことかい、ああ、ちゃんは銀造ってってね、この金太のちゃんは金兵衛というんで、どっちもいい人間だったよ、金太のちゃんはでこ金、おれのちゃんはやぶ銀ッて云われてたっけ、それッてえのがおれのちゃんは斜視だったし金兵衛さんは、なあ金太」
「うん、……おいらのちゃんは、かなりおでこだった、うん、かなりなもんだった」
「いや、儂は親父の人相を聞いているのではないて、親父があるとすれば、親父の親父があるわけだろう、つまりおまえたちにとっては祖父という理屈のものだ」
「ああそんな化物もいたようだ」
「化物というやつがあるか、仮にも血を分けた祖父と孫、祖父は大親というくらいで、いかに無学文盲とは云いながら、……では聞くのだけれども、その祖父は名をなんといって、生れはどこだ」
「おらあ手品使いじゃあねえから、じじいの人別までは知らねえ」
「なにが手品だ、どういう理屈で手品を使うんだ、ばかばかしい、云うことが一々……では聞くのだけれども、おまえたちの家は元来からの町人か、それともずっと先は武家とか公卿とか、或いはこの諸大名とかいう……」