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かみなりもんいほく

雷門以北

久保田 万太郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页

青空文庫

わたしの慶応義塾予科二年のときである。が、それにしてもその株の売買価の三百円は相場でなさすぎると思って友人伊藤貫一君にこれを質した。伊藤君は、仲見世入ってすぐの角の清水屋書店の主人である。「そんなことはありません、その時分でもその五倍や六倍はしました」と伊藤君はいった。「では、いまは、その十倍になっていますか」とわたしは聞いた。伊藤君は笑ってこたえなかった。

その代り、伊藤君、いろ/\そこについて参考になることを聞せてくれた。たとえばもとの煉瓦づくりの時分九尺だった間口が今度の奈良朝づくりになってから平均八尺(というのは中には七尺八寸のところもあるのだそうである)になったことや、各戸その一けん/\を一トこま二タこまという呼び方をしていることや、総々でそれが百四十七こま九十九世帯あることや、震災を助かっていまなお以前の「仲見世」の名残をとどめている仁王門のそばの七けんに「新煉瓦」という名称のついていることや、物日なんぞ人の出さかるときは東側にいて西側の店の見えないことや、等、等、等。――まさかいち/\書き留めるわけにも行かないからぼんやりした顔でわたしはそれらを聞いていた。