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かみなりもんいほく
雷門以北
久保田 万太郎
「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页
なればこそ、先生「小使部屋の女王」のそうした無理を聞かなければならない筋合いをいろ/\そこにもっていたらしいのである。――そうと分って初めてわたしは安心した。――祖母もまたわたしに附添って、そのあとでは二、三年わたしより遅れて入学したわたしの妹に食ッついて、ときに矢っ張とも/″\その小使部屋で日を消す定連のなかの一人だったのである。
……ただそれだけである。それだけのことである。……といってしまえない、すくなくともそういってしまいたくないものを、わたしは、このなかからいろいろ探し出したいのである。――そこには、亜鈴だの、球竿だの、木銃だのをことさらに並べた白い壁の廊下……わたしの眼にそのさまが浮ぶのである。――青い空をせいた葭簀の日覆が砂利のうえに涼しい影を落している運動場……わたしの眼にそのさまが浮ぶのである。――唱歌の教場の窓に咲いた塀どなりの桐の花……そのけしきがいまわたしの眼に浮ぶのである。――そうしていま、煙もみえず、雲もなく、風も起らず浪立たず……黄海々戦の歌である……あなうれし、よろこばし、たたかい勝ちぬ、百千々の……凱旋の歌である……そうしたなつかしいオルガンのしらべが夢のようにわたしに聞えるのである……