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かみなりもんいほく
雷門以北
久保田 万太郎
「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页
銀行といえば、手近に、並木通りの浅草銀行(後に豊国銀行)の古く存在するばかりだったのである。――「大風呂」のすでに失われた今日「大風呂横町」の名のいつかは昔がたりになるであろうとともに「松田の横町」の「松喜の横町」と呼びかえられるであろう日のそう遠くないことを、カラリとした感じの、いち早く区画整理のすんだ、いままでより道幅の遙に広くなった往来のうえに決定的にそうわたしは感じた。――いままでの「松田の横町」は外の三つの横町のどこよりも暗く陰欝だった。――「松喜」とは「いろは」のあとに出来たこれも大きな牛肉屋。――そこにちんやとすべてに於て両々相対している……
その四つのそれ/″\の横町についてこれ以上巨密なふでを費すことをわたしはしないだろう。なぜならそれはいたずらにただわたしの感懐を満足させるにすぎまいから。ただ、わたしは、それらのそのほう/″\の横町で聞いた「はさみ、包丁、かみそりとぎ」だの、「朝顔の苗、夕顔の苗」だの、定斎屋の鐶の音だの、飴屋のチャルメラだの、かんかちだんごの杵の音だの、そうしたいろ/\の物音が幾年月を経たいまのわたしの耳の底にはッきりなお響いている。