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かみなりもんいほく

雷門以北

久保田 万太郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页

青空文庫

それほど、整った、美しい、あかるい店舗の羅列をその両側がもつにいたったのである。ことにその下総屋と舟和との大がかりな喫茶店(というのはもとよりあたらない。といってそも/\の、ミツマメホオルというのもいまはもうあたらない。ともにその両方がガラスの珠すだれを店さきに下げたけしき――この頃の暑さにむかってのその清涼なけしきがいまはまれにしかみられない「氷店」といった感じをわたしに与えるのである)のすさまじい対立は「新しい浅草」の繁栄とそれに伴う無知なよろこびをいさましくそこに物語っている。――下総屋は「おかめ」の甘酒から、舟和はいも羊羹製造から、わずかな月日に、いまのようなさまにまでおの/\仕上げたのである。

……が、仕上げたということになると、わたしの十二、三の時分である、きのう書いた川崎銀行の角、際物師の店の横にめぞッこ鰻をさいて焼く小さな床見世があった。四十がらみの、相撲のようにふとった主人が、年頃の娘たちとわたしより一つ二つ下のいたずらな男の子とを相手に稼業をしていた。外にみるから気の強そうな、坊主頭の、その子供たちにおじいさんと呼ばれていた老人がいたが、そのうちどうした理由かそこを止し、広小路に、夜、矢っ張その主人が天ぷらの屋台を出すようになった。