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しゃべりすぎる
饒舌りすぎる
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页
十太夫の口がだんだんに大きく開いた。錠の外れた木戸がしぜんと開くように、少しずつ大きくなり、下顎が垂れさがるようにみえた。
「矢野五郎兵衛だって」と十太夫は唾をのみこんで反問した、「――それは土田の」
「そう」と土田は頷いた、「おれの母の外祖父だ、母は忍田の養女になっていたが、じつは矢野家の出なんだ」
十太夫は唇をひき結んだ。矢野五郎兵衛という名を聞いて、彼もまたその話を思いだしたのであろう。ふきげんに手酌で二杯飲んだ。
「おまえは饒舌り過ぎる」と十太夫は顔をしかめて云った、「いちごんで云えば、師範のあとを引受けるのがいやなんだろう」
土田正三郎は黙って微笑した。
「それならそう云えばいいんだ」と十太夫は云った、「なにも譬え話なんかもちだすことはありやしない、いやだと云えばわかることだ、まったく土田は面倒くさいやつだよ」
土田正三郎はなにも云わなかった。そのとき二人は、袖町の「千石」という店で飲んでいたのだが、そこを出てから「よし野」へゆき、腰を掛けたかと思うとすぐに、十太夫が「枡平へゆこう」と立ちあがった。土田正三郎は反対しようとしたが、十太夫は「饒舌るな」