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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

。

この洪水で生残ったのは、不思議にも娘と小児とそれにその時村から供をしたこの親仁ばかり。

おなじ水で医者の内も死絶えた、さればかような美女が片田舎に生れたのも国が世がわり、代がわりの前兆であろうと、土地のものは言い伝えた。

嬢様は帰るに家なく、世にただ一人となって小児と一所に山に留まったのはご坊が見らるる通り、またあの白痴につきそって行届いた世話も見らるる通り、洪水の時から十三年、いまになるまで一日もかわりはない。

といい果てて親仁はまた気味の悪い北叟笑。

(こう身の上を話したら、嬢様を不便がって、薪を折ったり水を汲む手助けでもしてやりたいと、情が懸ろう。本来の好心、いい加減な慈悲じゃとか、情じゃとかいう名につけて、いっそ山へ帰りたかんべい、はて措かっしゃい。あの白痴殿の女房になって世の中へは目もやらぬ換にゃあ、嬢様は如意自在、男はより取って、飽けば、息をかけて獣にするわ、殊にその洪水以来、山を穿ったこの流は天道様がお授けの、男を誘う怪しの水、生命を取られぬものはないのじゃ。

天狗道にも三熱の苦悩、髪が乱れ、色が蒼ざめ、胸が痩せて手足が細れば、谷川を浴びると旧の通り、それこそ水が垂るばかり、招けば活きた魚も来る、睨めば美しい木の実も落つる、袖を翳せば雨も降るなり、眉を開けば風も吹くぞよ。