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こうやひじり
高野聖
泉 鏡花
「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页
しかもうまれつきの色好み、殊にまた若いのが好じゃで、何かご坊にいうたであろうが、それを実としたところで、やがて飽かれると尾が出来る、耳が動く、足がのびる、たちまち形が変ずるばかりじゃ。
いややがて、この鯉を料理して、大胡坐で飲む時の魔神の姿が見せたいな。
妄念は起さずに早うここを退かっしゃい、助けられたが不思議なくらい、嬢様別してのお情じゃわ、生命冥加な、お若いの、きっと修行をさっしゃりませ。)とまた一ツ背中を叩いた、親仁は鯉を提げたまま見向きもしないで、山路を上の方。
見送ると小さくなって、一座の大山の背後へかくれたと思うと、油旱の焼けるような空に、その山の巓から、すくすくと雲が出た、滝の音も静まるばかり殷々として雷の響。
藻抜けのように立っていた、私が魂は身に戻った、そなたを拝むと斉しく、杖をかい込み、小笠を傾け、踵を返すと慌しく一散に駈け下りたが、里に着いた時分に山は驟雨、親仁が婦人に齎らした鯉もこのために活きて孤家に着いたろうと思う大雨であった。」
高野聖はこのことについて、あえて別に註して教を与えはしなかったが、翌朝袂を分って、雪中山越にかかるのを、名残惜しく見送ると、ちらちらと雪の降るなかを次第に高く坂道を上る聖の姿、あたかも雲に駕して行くように見えたのである。