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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
「はははは」一八郎は磊落に笑って、「うつうつと居眠っているうちに、そんな様子だとは思ったが、お前のヤッと投げた縄の息を聞いて、ははア、こいつは逃がすわいと見切りをつけていたんだ」
「え、じゃ、旦那はうすうす知っていたんですね」
「女の声もしていたようだな」
「それが見返りお綱だったんです。あの女には、ぬきや屋敷で、あぶねえところを助けられていますから、その恩にも、縄をかける気はありません。実あ、走井の茶屋の先で、チラと姿を見かけたので、和蘭陀カルタにことよせて、それとなく礼をいいにいったくらいですからね……。だが、あのお十夜の奴だけは、ここで逢ったのを幸いに、引っ縛めて代官所へでも預けてやろうと思ったのに、旦那も人が悪いや、あの時、ちょッと手を貸してくれれば、きっとうまくいったんですぜ」
調子にのって目明し万吉が、逃がした魚の大きいことを嘆じてやまずにいると、一八郎は、それをなだめようとはせずに、かえって、
「これ、万吉」と、岩角へ腰をすえて、まじめに開きなおり、さて、その上で叱言がでた。
「出立のみぎり、常木先生が、くれぐれもそちにおっしゃった言葉を、もう忘れているとみえる……」