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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

ない――というがためである。

そこで、大阪表から、東海道へかかってきた二人は、今日の途中、何か知りたいことがあって、携えてきた伝書鳩を、この関の山から人知れず放したのである。そして、その返事を待ちわびていたのだ。

飛ばした先は、安治川の近所、鳩の翼では一はたきである。もう帰らねばならない時刻の筈。

その頃から、チカッ、チカッと、白い電光が雲間から目を射てくる。夜のとばりの迫るとともに、嵐の先駆らしい風が、そよそよと草を撫でてきた模様に、一八郎は、わが子を待つような、心配と焦躁にかられつつ、空ばかり気にして眺めた。

「まだ見えぬのう」幾度、こうつぶやいたかしれない。

「どッぷり暗くなったので、方向が、分らなくなったのじゃありますまいか」

万吉も小手をかざしていた。その間にも、二人の影を隈どって、稲光りの閃光がしきりに明滅した。

「いや、まだこれくらいな薄明りがあれば……」

「それとも、雷気にすくんでしまったかな?」

「そんな筈はない。こんど携えてきた鳩は、数ある中でも、ことに遠放しもきくし馴れぬいている一羽。どこにおろうと、この方のいるところへ必ず戻ってくる質だが」