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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

(お問合せの、阿波守様お国帰りは、九月上旬という噂、お下屋敷もお引上げの御用に取り混んでおります。御渡海のお座船、卍丸も、きょう安治川へ入って、艤装いやら何かの手入れにかかりはじめました。とり急ぎお答えまで。お江戸の吉報、待ち上げまする)

読み終ると、も一度、初めの方へ目を返して、

「九月の上旬……、すると、今からまだ二月の間がある」

「それまでには、常木先生のお支度も十分にできるし、こっちの方も楽に江戸から帰れますぜ」

「なるべく、阿波守が入国の混雑に乗じて、その隙に、関を破って密境へ入りこむが上策であるという諜し合せ。あしたはこのことを、常木先生のほうへも知らせておこう」

「しッ……」

何思ったか、その時、万吉が突然声を制して、燃え残りの火をめちゃめちゃに踏み消してしまった。

それを、なぜと怪しむまでもなく一八郎もぎょッとした。いつの間にか、後ろへ近よっていた七、八人の侍が、じッとこちらを見ていたのである。

気転よく、万吉の蹴ちらした枯杉の火の粉が、草から草へ吹かれてしまうと、星明りもなき真の宵闇……。わずか四、五尺の隔てながら双方の姿は、その輪郭すらもよく分らない。