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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

と万吉は、意外な現実にぼんやりとあたりを眺め廻している。

それに反して一八郎の頭脳は、怖ろしい緻密さと速度でこの奇遇の利害を考え始めた。あの二人も阿波の密境へ入り込もうとする者、また自分たちも久しく阿波の内情を探ろうとして腐心するものだ。偶然、その目的が同じ蜂須賀家にあるのであるから、打ち溶けて話しあってみれば、必ず何か、双方の利となることがあるに違いない。

一歩退いて、仮に、互の目的が違っていたとしても、これからはるばる尋ねて行こうとするお千絵様のことは、銀五郎や多市が充分詳しい筈である。とにかく一つ訪れて見よう――こう心に決めたので、万吉に相談すると、もとより万吉にも異存はない。

静かに出なおして、庭口らしい柴折戸を押し、向うでびっくりしないように、

「少々ものを伺いますが……」とていねいに声をかけてみた。

時雨堂の縁先では、銀五郎が、多市に薬風呂をつかわせて、傷の塗薬や浴衣の世話をみてやっているところだった。

「どなた様?」聞きなれない訪れに、銀五郎の眼が闇へ光ると、もう木戸を押して一八郎と万吉が、つかつかとそこへ入ってきて、

「不意に失礼なお訊ねではあるが、もしや御身は、唐草銀五郎という者ではござらぬか」