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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
「そんな憂いは万々ござりませぬ。ちょうど、夕刻から今し方まで、北関の裏から見張っておりましたが、向うは何も気がつかずに静まり返っておりまする」
「では、完全に袋の鼠だ……。まず、もうしばらくの間、あの額堂で、夜の更けるのを待つと致そう」
「しかし、天堂氏……」その時、横から話頭をかえてでたのは弥助である。「ただ一つ、これへ帰ってくる途中で妙な奴に出会いましてな」
「妙な者に?」
「されば、どこから飛んできたものか知らぬが、鳩に結ばれてきた薄紙を解き、しきりにそれを読んでいる奴がござりました」
「何かの書物で見たことのある、伝書鳩を使う者ではあるまいか」
「あるいは、そうであったかもしれませぬ。とにかく、怪しい奴と睨みましたので、ツカツカと側へ寄って、じッと挙動をみつめておりますと、格別、あわてて逃げる素ぶりもなく、そのまま山を下りて行く様子。引っ捕えてみるまでもないと、その場はやり過ごしてしまいましたが、どうも、今になって考えると、少し不審がないでもないように思われます」
「そして、風態や年頃は」
「一人は旅装いの三十二、三、これは武家態でござって、一人は弁慶格子の着ものを着た町人でござりました」