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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
傘をほうって抜け道へ出る。堺戻りの町駕、島の内まで約束したが、気が変って五櫓の富十郎を一幕のぞき、ブラブラ歩いて帰ってきた。
「おや、あの男は?」と、その途中で、万吉の顔の筋がピンとした。待乳の多市にまぎれなしだ、疲れてしょんぼりした影が、渡辺町の旅籠土筆屋へスウと入った。
一息抜いたところで万吉は後ろからこっそり、
「ご免よ」と主の和平に目じらせして、梯子下の道具部屋にしゃがみこむ。
「ふム、六日も前から泊っているのか、宿帳はこれだな、どれ……」ペラペラとめくって、自分の耳朶をギュッとつねった。何か苦しい考え事をする時に万吉がよくやる癖だった。
「連れの、銀五郎というのは?」
「阿波へ入る用向きがあるとかで手形をとるため、毎日蜂須賀様のお役目筋へ手を廻していましたが、どうも御免切手が下りない様子で、今日は早くからお戻りでございました」
「そうか、ちょっと二階を借りてえな」
「ええ、よろしゅうございますとも」
「二番の部屋といったっけな」裏梯子を上がって隣り座敷へ、そっと細目の隙見、鰻なりに寝そべっている。
「多市、そう案じることはねえ」という声は唐草銀五郎のほう。